第145回ベンチャー研究会のご報告

 2月の大阪ベンチャー研究会が終りましたので報告します。次は3月17日です。

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◆第145回大阪ベンチャー研究会は、2018年2月17日、日刊工業新聞社大阪支社ビル10階で開催されました。男子アイススケートの放映時間中であったにも関わらず盛会に開催することが出来ました。参加下さった皆様にお礼申し上げます。

 さて、今回は「ブランディング&デザインとベンチャー」というテーマで開催しました。事前の案内では「デザインとベンチャー」でしたが、「デザイン」の奥(背景)には「ブランディング」があり、発表される内容も「ブランディング」との関わりが大きかったので、テーマも上記のように変更して開催しました。

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◆まず、最初に講演下さったのは、株式会社SEIWA 取締役・クリエイティブディレクターの上月勇人様でした。タイトルは「なぜ今、ブランディングが重要視されているのか」でした。 

       569-1047  大阪府高槻市大和1丁目1620号、Mobile: 090-4281-8481

           h.kozuki@jseiwa.com自社ブランド「LAUNDRY TODAY http://laundrytoday.jp/ 

     FB https://www.facebook.com/laundrytoday.washdry/? 

 

 上月さんは学校を卒業された後、フリーランスのデザイナーとしてスタートされ、やがて、広告代理店に就職されて、デザイナーとしてSPを中心に活躍されました。その後、デザイン事務所から大手通信会社(代理店)のハウスエージェンシー、クリエイティブ部署の責任者など、マーケティングとブランディングに関するお仕事を、多数、経験されました。これらを基礎に、2017年、自身の株式会社SEIWAを設立されました。従って「独立起業のベンチャー」です。 事業としては、自社ブランドでユニークなコインランドリー(「LAUNDRY TODAY」)の操業と、他社の店舗や商品のブランディングを行なっているとのことです。

   講演では、まず、上月さんが、デザインとブランディングに関って体験してこられた仕事の実績について紹介されました。つぎに、ブランディングとデザインに関係する基礎概念と、今、なぜ、ビジネスの世界では、ブランディングが重要視されるようになってきているのか、やや、専門的ですが、わかり易く説明されました。1.生活者の思考が変わったこと、2.市場で価格競争が激化したこと、3.大企業に依存した下請仕事では中小企業の経営はなり立たなくなってきたこと、などが大きな基礎であり背景である。そこで、Steve Jobsも言うように「ブランドは選別を助けてくれる」存在であるので、良い技術、良い製品を持った中小企業は、ブランディングで、それらを「市場で選ばれる存在」にしていくことが必要であり可能である。そのためには、まず、「ブランド」とは何かを正しく理解しておく必要がある。「ブランド」は「生活者からの感情移入が伴ったもの」であって、「生活者の心の中にあるもの」なのである。ゆえに、生活者に提供する価値も、品質や機能などの「実利的価値」にとどまらず、デザインやイメージなどの「感性的価値」や「情緒的価値」「共鳴的価値」のあるものである必要がある。企業にとっては、「ブランディング」は、「マーケティング」の下位ではなく上位にあるのではないか。まず、「ブランディング」を考え、つぎに、「マーケティング」、そして、「製品」「経路」「価格」「プロモーション」等々、という順ではないか。ブランディングを行なうにあたって重要な点は、1.経営者がクリエィティブであること、2.経営に直結したところにクリエイティブな部署があること、3.外部クリエィティブな人と一緒に創り上げていくこと、である。企業とデザイナーは委託者と受託者の関係ではなく、パートナーの関係であるべきである。概略、以上のような内容でした。その後のグループディスカッションでも、活発な議論がなされました。質問に答えて、上月さんは、ベンチャーのブランディングは、大企業のように広域を相手にするのではなく、狭い地域に限定して、そこでナンバーワンになる。そうすると、小規模でも「ブランド」化は可能である。そのように自社を例に挙げて明快に述べられました。考え方として、大変、参考になる話だったと思います。

 

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◆第2番目の登壇者は、株式会社ジュエリーカミネ代表取締役で株式会社CITY of GEMS JAPAN代表取締役の上根学様でした。タイトルは「ジュエリー絵画で日本ブランドを世界へ」 でした。 

650-0022 兵庫県神戸市中央区元町通3丁目5-8 、東京事務所:東京都新宿区市谷台町19-14-303 

バンコクオフィス:919/315 Jewely Trade Center 11 Fl. Silom Rd. Bangrak. Bangkok. 10500 Thailand. ホームページアドレス:http://kaminesz.com/

 

 宝石の卸業、小売業、スリランカ・ラトゥナプラに現在4つの宝石鉱山と11の共通鉱山を日本で唯一保有、サファイアなどカラーストーン(色石)を鉱山採掘から研磨、宝飾品になるまで一貫して扱う。 ジュエリー絵画を開発・販売、現在世界7カ国で販売。中国・台湾など4カ国で商標登録済、LEDジュエリー絵画で特許所得。 大阪市立大学共同事業。

 

 上根さんは、創業が明治39年で112年も続く老舗の㈱ジュエリーカミネの4代目代表取締役社長さんですが、目下、第2創業を目指されているので、いわゆる「第2創業ベンチャー」です。大学時代からファッションモデルとして活躍しておられ、外資系アパレル業界で勤務も経験されています。現在は、芦屋と神戸市内でジュエリー小売店を8店舗展開されています。一方、スリランカでもジュエリー鉱山を所有されていて、㈱CITY OF GEMS JAPANの代表取締役もされています。親から子へ、子から孫へと世代を超えて受け継がれる「宝石文化」を日本に定着させるべく、日夜、良質の宝石を求めて、スリランカの鉱山の調査をしておられます。

 講演は、まず、日本のジュエリー業界の現状について説明されました。1.バブル期には3兆円あった宝石市場は最近の10年で1兆円まで縮小している。2.女性が小売売上で95.6%を占めている。3.ダイヤモンドと真珠の2種で3分の2を占めている。4.消費者は宝石は100%身に着けるものだと考えている。そのため商品は小さく、デザインも限られる。5.ファッションが多様化し、若者のジュエリー離れが進んでいる。など、業界全体として、問題や課題が山積していることについて話されました。しかし、他方では、6.大手企業のシエアは低いので中小企業に活躍の余地が残されている。7.真珠養殖で成功した御木本幸吉翁のお陰で、世界的に有名な日本発ブランド(「ミキモト」)が遺産としてある。8.世界に誇る素晴らしい日本文化(食文化、アニメ文化、日本絵画、など)が多数存在している。9.ジュエリー業界では、いま、業界の知名度を上げたい、価値と魅力を内外に伝えたい、という強い意欲が起きている。など、課題解決の条件も多数存在していることも確認され、発展の可能性も十分にあると分析されました。

 そこで、上根さんは、「第2創業」として、新規事業を起こし、日本の宝石業界の再生に挑戦したい。それにはまず発想の転換が必要である。そこで、大学院(大阪市立大学)に進学しようと決意されました。この大学院への進学が上根さんにとって大きな転機となったようです。「ジュエリー絵画」の事業化がそれでした。

 その前に、阪神淡路大震災の直後に、宝塚市の名誉市民である手塚治虫の「火の鳥」を見て衝撃を受けられました。以来、手塚治虫の大フアンになったということがあったとのことです。それを大学院の先生に話されたところ、先生はそれならばと手塚プロダクションの代表者の方を大学にゲストとして招聘して下さり、お陰で、直接、代表者の方に会うという絶好の機会に恵まれました。その後、同プロダクションとの間で共同研究や製品開発が行なえるようになりました。著名な企業や寺院などへのライセンス供与や、内外の著名な百貨店や書店などでの「ジュエリー絵画」の販売、また、震災で被災した東日本の地域に絵画を寄贈したり、自治体(宝塚市・奈良県宇陀市など)と共同でイベント事業、大学(大阪市立大学)との共同研究など、次々と「第2創業」としての新規事業が進展していったのでした。

 とにかく、上根さんは、手塚治虫(火の鳥、リボン騎士)が大好きな人です。そのため手塚治虫に関係の事業が多いのですが、その他でも池田利代子プロダクション(ベルサイユのバラ)、サンリオ(ハローキティなど)など、日本を代表するマンガやキャラクターにも拡がっていて、拡大の可能性が大きいようです。「宝石で描く」という新しいアイデアの日本文化の創造に挑戦されている。今後、これが発展して、「ブランド」となり、日本から世界に情報発信していくことで、日本の宝石業界も再活性化していくだろう、今は、そんな野望を抱いて、日夜、事業に取組んでいる、と話されました。最近、テレビ「世界ふしぎ発見」、「未来世紀ジパング」)や新聞など多数のメディアでも取り上げられたり、大学(関西学院大学)からも講演依頼が来るなどになっているので、その可能性は高いと思われます。

 講演後のグループディスカッションと交流会&懇親会、3次会でも、上根さんの「宝石絵画」で話は盛り上がり、その素晴らしいアイデアと高い技術・製品の品質、画期性、文化性、審美性、関連企業・業界の多様性、なども考えると、今後、大きく発展していかれる「ベンチャー企業」という気がしました。  

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◆第3番目の登壇者は、株式会社footjapan所属の澤田真樹様で、講演のタイトルは「足裏から健康サポート!:世界に1つだけのオリジナルインソール!」でした。

                   〒553-0003大阪市福島区福島8-5-6

            Tel.06-4797-0880 Fax:06-7492-6113        

            オーダーメイドインソール製造所 株式会社 footjapan

                      http://www.footjapan.com/ 

                                                https://www.facebook.com/footjapan

 

  澤田さんは、1990年に大阪市立工芸高等学校図案科を卒業された後、2012年に株式会社footjapanに所属されるとともに、2013年に自身も健康講座「楽ラボ」を立ち上げられました。きっかけは、自分の足のトラブルから、全身への不調に繋がる身体のメカニズムに興味を持つようになったことで、母親のリウマチ発症から足底装具、整形靴の存在を知り、フットケア業界へ入ったものの、健康産業と健康寿命の健全化、そのための社会教育活動が重要と考えるようになったとのことです。

 講演では、まず、1.足の骨格とその役割、2.足のトラブルと靴合わせ、3.

インソールの役割りと重要性、について話されました。その後、市場に良質な製品を流通させる方法について、4.お客様に賢い消費者になっていただく、5.啓蒙活動、専門講座(楽ラボ)、6.インソール・デザインの向上、6.澤田真樹のブランド化、について話されました。

 足は沢山の骨(両足で56個、人体の約4分の1)から成っている。その構造を知ることが重要だ、とうことで、冒頭、参加者に、足の骨格図と蛍光ペンを配り、親指、人差指、中指から距骨までの色塗りワークを指示されました。これで足は大きくは親指グループと小指グループの2段から成っていることを理解し、次に、内側と外側と横側の3つのアーチで全身の重力が支えられるようになっているという、人間に特有の直立二足歩行の可能性の謎を説明されました。その次に、さまざまな足のトラブルとそれに関係する靴の問題について、また、インソールの役割と重要性について、図で示しながら、わかり易く説明していかれました。

 多分、私たちが足に障害が起きても、このように詳しく、足の骨格や構造、機能、足の病気について、また、足と靴・インソールとの関係について、説明を受けたことはなかったと思います。かなり専門性の高い説明でした。いかにも、日本では、現在、歯科や眼科、耳鼻咽喉科、産婦人科、などに相当する、足科や足の専門医は殆ど見られません。そのため足に痛みを覚えると、例えば、整形外科や整骨院などを訪問しますが、そこには足の専門家はいないので、治療はなされない。間違った治療で全身の健康を悪化させたり高い治療費を支払わされたりするのがおちでしょう。足に関しては、日本は欧米から100年以上も遅れている(桑原靖『放っておくと怖い足の痛みと不調を治す本』宝島社)のが実情です。そのため、澤田さんは、㈱FootJapanに所属してオーダーメイドの個人最適のインソールを推奨し販売するとともに、現役看護師(山口晴美先生)さんと協働して、健康講座「楽ラボ」を開設され、赤ちゃんから高齢者まで、一人ひとりに合った「身体を楽にする靴合わせの極意」を伝授されています。それを通じて、日本の健康産業と健康寿命延長の運動が正しい方向へ向かうようにと活動しているのだそうです。

 一人ひとりの足に合った靴やインソールを最適化させていくことが澤田さんにとっての「デザイン」であり、そこで出発点であるデザイナーとしての考えが生かされているようですが、基礎の健康講座「楽ラボ」の浸透のためには、靴やインソールではなく、澤田真樹という人間を知ってもらうことが必要で、それにはブランド化が有効で、課題と考えている、とのことでした。

 グループディスカッションでは、具体的に、ウオーキングとランニングは目的が違うので、靴も選択が必要である、また、踵部分は柔かいと骨格がずれるので硬い方が良い、つま先部分は関節の可動部を考えると柔かい方が足に負担がかからないので良い、など、最近、足底筋膜炎で苦しんでいる私には、明日にでも役立つ有益な情報で幸いでした。後半は、澤田真樹さん自身をどうブランド化していくかという課題で、参加者からも いろいろとアイデアが出され、互いに得るところも多い研究会になりました。                            

                            (記:小西一彦) 

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